信長貴富(1971–)/混声合唱とピアノのための「初心のうた」より「自由さのため」

作詞:木島始(1928–2004)

初演 2002年6月16日 エオリアン・コール(アマチュア合唱団)第20回演奏会

本作品は「混声合唱とピアノのための初心のうた」という作品集に収録されている。
第1曲目の「初心のうた」は、月刊雑誌『教育音楽』中学・高校版(音楽之友社)の2001年8月号付録楽譜用に作曲された。中学生向けという依頼だったため、青少年が広い視野をもって未来に一歩を踏み出してほしいという願いを込めて作曲されたようである。

この作品集の特徴は、全ての曲に木島始の詩が使われているということだ。

木島は戦時中を生きた詩人であった。原爆被害の同級生を看護していたときに敗戦を迎えたのは齢わずか17の頃の話だ。多感な青年期に経験した戦争は木島に大きな影響を与えたに違いない。実際、彼の作品の中には戦時中の生々しい描写を含んだものがいくつも存在する。曲集のタイトルにもなっている詩『初心のうた』はそれが顕著に表れており、社会を痛烈に批判している。

「自由さのため」は曲中に何度も登場する「酔いつぶされるな 海のめまいに」というフレーズが特徴的だ。「世の中」を「海」に例えており、独りで「泳ぎ切る」ために「酔いつぶされるな」と歌う。やがて、厳しい世の中に出ていかなくてはいけない若者へ向けたメッセージなのかもしれない。

曲調は明るく、テンポは速い。一瞬だけト短調に変わるものの、大部分がト長調として構成され、海や空のような爽やかな印象を受ける。時折入ってくるアルトやバスの「u」という声がどことなくクジラの鳴き声を思わせる。四声それぞれが独立して動く部分はそこまで多くなく、女声と男声、内声と外声、高声と低声のような掛け合いが多く見られる。歌詞はほとんど同じ言葉で構成されており、伴奏もまたアルペジオ風のリズムが一貫して続くため、聞き心地の良さを感じる。


参考文献

  • 『混声合唱とピアノのための「初心のうた」』音楽之友社、2003年
  • 木島始『[新]木島始詩集』土曜美術社出版販売、2000年

文責:アルト4年 小磯詩織