フェリックス・メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn-Bartholdy, 1809-1847)/劇付随音楽「真夏の夜の夢」序曲 作品21

作曲 1826年
初演 1827年2月20日 シュテッティンにて公開初演。
それ以前にも1826年末に2回の私的発表が行われた
(1回目は4手ピアノで、2回目はオーケストラを伴ってメンデルスゾーン家の日曜演奏会にて)。

「真夏の夜の夢」序曲は、フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ(Felix Mendelssohn-Bartholdy, 1809-47)が17歳の時に書いた作品で、標題音楽の一種である交響詩[1]の最初期のものとされる。彼は当時英語を十分に理解していなかったため、ドイツ語訳を通じてシェイクスピアの喜劇『真夏の夜の夢』に触れた。『真夏の夜の夢』にインスピレーションを受けたメンデルスゾーンは、1826年の7月7日から8月6日にかけて「真夏の夜の夢」序曲を作曲する。1826年末に2回の私的発表会を経て、1827年2月20日にポーランドのシュティッティンで公開初演が行われた。もともとは4手ピアノ(二人で行う連弾)曲として作成され、のちにオーケストラ用に編曲された。二回目の私的発表会はメンデルスゾーン家の日曜演奏会で行われ、すでにオーケストラを伴って演奏されたという。序曲の作曲から17年後の1843年、この序曲に感銘を受けたプロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム4世の命によって、劇付随音楽「真夏の夜の夢」が作曲された。合唱と管弦楽によって演奏されるもので、序曲とは異なり戯曲の場面に合わせた音楽がつくられた。このなかに含まれる「結婚行進曲」は、結婚式を彷彿とさせるクラシック音楽として誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。この劇付随音楽は1843年10月14日、ドイツ(当時はプロイセン)のポツダムで初演を迎えている。現代では劇付随音楽の全てが演奏されることはあまりないが、管弦楽によって序曲と劇付随音楽「真夏の夜の夢」の中から「スケルツォ」、「夜想曲」、「結婚行進曲」などを組み合わせて演奏されることがある。

イギリスの劇作家ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)の喜劇『真夏の夜の夢』は、1595年制作の5幕構成の喜劇で、彼の劇作品の最高傑作ともいわれる。聖ヨハネの祝日である6月24日の前夜、アテナイの侯爵テセウスとアマゾンの女王ヒッポリタの婚礼前、森の中で繰り広げられる神秘的でロマンティックな若い恋人たちの恋の騒動を中心とした物語である。妖精王オベロンと女王タイターニアの夫婦喧嘩と、ライサンダーとハーミアの駆け落ちを中心として物語は展開していく。タイターニアに恥をかかせようとしたオベロンに、目が覚めて初めて見たものに恋をしてしまう「浮気草」を塗るよう命じられた妖精パックは、間違えてライサンダーに塗ってしまう。この勘違いから、ライサンダーとハーミア、ディミートリアスとヘレナという二組の恋人は大喧嘩となってしまい、責任を感じたパックは魔法で四人を眠らせて、解毒剤「ディアナのつぼみ」を用いて事態は収束する。目を覚ました恋人たちは昨晩の不思議な体験を語り合いながら宮廷へと帰っていき、テセウスとヒッポリタの婚礼では職人たちによる悲劇が演じられる。皆が寝静まると、宮廷を森の妖精たちが清めて舞台は幕を閉じる。

「真夏の夜の夢」序曲は、シェイクスピアの物語の筋書き通りに音楽が展開していくわけではなく、劇中の個性的な登場人物たちをあらわす音楽が次々と登場して進行していく。冒頭部では、木管楽器による4つの長い和音による序奏の響きで幻想的な妖精の森の世界が描き出される。序奏に導かれた第一主題では、軽妙なヴァイオリンの旋律が森の妖精の踊りをあらわし、アテネの侯爵テセウスの豪壮な和音のメロディへとつなげられる。つづく第二主題は、ライサンダーとハーミアの愛の調べを思わせる。侯爵の婚礼のための6人の職人たちの踊りをあらわすベルガマスク舞曲を経て、展開部にてこれまで登場した各主題が再現される。曲が終わりに近づくにつれて、次第に音楽は華やかに盛り上がりをみせていく。最後には弱まって序奏の和音が再び登場し、静かに眠りにつくように序曲の幕が下ろされる。シェイクスピアの戯曲全体の流れをとらえ、伝統的なソナタ形式をもとに組み立てられた曲となっている。

楽器編成

フルート 2 ホルン 2
オーボエ 2 トランペット 2
クラリネット 2 オフィクレイド※
ファゴット 2 ティンパニ
弦五部
※今回はチューバで演奏。

  1. 交響詩(symphonic poem)とは、詩的・絵画的内容に基づいてつくられた管弦楽のための標題音楽の一種。通常は標題に基づく多楽章の標題交響曲などと区別するために、単一楽章のものに用いられる。「真夏の夜の夢」序曲はもともと単一の楽曲として作曲されているため、この表現が当てはまる。↩︎


参考文献

  • 『序曲<夏の夜の夢>』(スコア解説文)日本楽譜出版社
  • レミ・ジャコブ(作田清訳)『メンデルスゾーン 知られざる生涯と作品の秘密』作品社、2014年
  • 佐々木充『ブックレット新潟大学39 深読みシェークスピアー『真夏の夜の夢』と月のフォークロア―』新潟日報事業社、2005年
  • 杉井正史「『夏の夜の夢』再考」『人文研究 大阪市立大学大学院研究科紀要』、84巻5号、大阪市立大学大学院文学研究科、2002年、pp.29-40

文責:オーボエ4年 白鳥佐織