作曲 | 1914年 | 当初はピアノ連弾版、組曲全体は1916年にかけて |
初演 | 1920年10月10日 | バーミンガムにて |
グスターブ・ホルストは1874年にイングランドのチェルトナムで、スウェーデン系の血筋の家庭に生まれた。ホルスト家が音楽に精通していたこともあり、17歳の時に右手の神経炎によりピアニストの道が絶たれても尚、音楽家としての道を志し続けた。1893年ロンドンの王立音楽大学にてヴォーン・ウィリアムズらと共に音楽を学んだ後、トロンボーン奏者や学校の音楽教師として活動する傍ら作曲活動に勤しんだ。またインド思想や占星術のような神秘的な世界にも興味関心を持っており、彼の代表作「惑星」にも占星術の要素が含まれている。
「惑星」は第一次世界大戦後の1920年に初演され、古い様式と新しい様式を混合した曲調は当時の聴衆から大変な好評を博した。組曲は「火星」「金星」「水星」「木星」「土星」「天王星」「海王星」の7曲から成り、力強い5拍子の「火星」や静かで美しい「金星」、軽やかに音が飛び交う「水星」、壮大で華やかな「木星」などそれぞれの曲ごとに異なる曲調が聴衆を魅了してきた。しかし「惑星」の大ヒットにも関わらず、その後のホルストは身体的衰弱も相まって全盛期のような人気を得ることはできなかった。今日のような人気を取り戻すのは1961年頃に指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンがウィーン・フィルハーモニー交響楽団と「惑星」を演奏したことによる。また1930年に冥王星が発見されたことによりホルストは「惑星」に「冥王星」の追加を試みるが、未完成のまま1934年にこの世を去ることとなった。組曲は全曲合わせて50分程度で演奏できるが、かなりの大編成でオルガンや女声合唱が必要になるため、組曲を通して演奏されることは現在ではあまりない。
今回演奏する「木星」は組曲の4曲目に当たる。快活なテンポで始まる冒頭と壮大な中間部の対比が美しい楽曲である。特に朗々とした中間部はホルスト自身により、コラールに編曲されており、「我は汝に誓う、わが祖国よ」はイギリスの愛国歌となっている。また日本では2003年に歌手・平原綾香の「Jupiter」に使用されるなど、なじみ深い旋律ではないだろうか。
冒頭(Allegro giocoso 快活に戯れるように ハ長調 2/4拍子)はバイオリンの快活な前奏とホルンの力強い主題から始まる。唐突にシンバルが鳴り、迫力のあるオーケストラの音が響き渡るのが印象的だろう。ホルストがトロンボーン奏者だったこともあり金管楽器が非常に活躍する主題が続く。
中間部(Andante maestoso 歩くような速さで荘厳に 変ホ長調 3/4拍子)は、クラシックに興味がない人も一度は聞いたことがある言わずと知れた有名な主題。弦楽器とホルンによるゆったりとした壮大な主題(譜例)はティンパニと相まってスケールの大きさを感じさせる。
終盤は冒頭の快速な主題が再展開され、中間部の再現が一瞬現れつつも、急速なテンポでコーダを迎えて曲が終結する。
楽器編成
ピッコロ | 2 | ホルン | 6 |
フルート | 2 | トランペット | 4 |
オーボエ | 3 | トロンボーン | 2 |
イングリッシュホルン | バストロンボーン | ||
クラリネット | 3 | テナーチューバ※ | |
バスクラリネット | トライアングル | ||
ファゴット | 3 | タンバリン | |
コントラファゴット | シンバル | ||
ティンパニ | 2 | バスドラム | |
ハープ | 2 | グロッケン | |
弦五部 | |||
※ユーフォニアムで演奏 |
参考文献
- マイケル・トレンド(木邨和彦訳)『イギリス音楽の復興 音の詩人たち、エルガーからブリテンへ』、旺史社、2003年
- Raymond Head「Holst - Astrology and Modernism in 'The Planets'」『Tempo No.187』ケンブリッジ大学出版局、1993年、pp.15-22
- 青石ひかり「ホルスト《惑星》と西洋占星術の深い関係を青石ひかりが解説!」(ONTOMO Webサイトより、2021年、参照:2022年1月7日)
文責:パーカッション4年 川波柚月