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【曲目解説】リムスキー=コルサコフ/スペイン奇想曲

【曲目解説】リムスキー=コルサコフ/スペイン奇想曲


作曲:1887年7月
初演:1887年10月、作曲家の指揮によりペテルブルクの帝室マリインスキー劇場管弦楽団の演奏にて

リムスキー=コルサコフは1844年、モスクワの北西に位置する都市ノヴゴロド近郊で軍人貴族の家庭に生まれた。幼いころから楽才を発揮したとされ、17歳の海軍兵学校生時代にバラキレフから作曲の手ほどきを受けたが、交響曲第1番を完成させたのは21歳の頃である。ロシア国民音楽の創造を推進した「5人組」には最年少として所属した。1871年からペテルブルク音楽院で35年にわたり教鞭をとり、弟子にはグラズノフ、ストラヴィンスキー、プロコフィエフなどが名を連ねる。1874年には海軍軍楽隊監督に任命された。軍楽隊の指導を通じ管楽器の知識をより豊かにしていった結果、作曲家が「管弦楽の大家」「音の風景画家」と呼ばれることに繋がっていく。艦隊に所属し世界中を航海した経験は交響組曲「シェヘラザード」などの作品に生かされていると言えるだろう。

今回演奏する「スペイン奇想曲」についても、海軍士官として各地を訪れた結果、スペイン風の色彩を持つ音楽に心惹かれ、作曲を計画したとされる。1887年、リムスキー=コルサコフは「5人組」の親友ボロディンが遺した歌劇「イーゴリ公」を完成させる作業をしていたが、その仕事のさなかに新しい曲の着想が浮かんだのである。当初はスペイン風の主題に基づく華麗なヴァイオリンの幻想曲を意図し大体のスケッチは完成したが、これを変更して管弦楽曲として完成した。主題の華やかさと輝かしい管弦楽法により、リムスキー=コルサコフの数多くの作品の中でももっとも愛される作品となっている。

曲は続けて演奏される5つの楽章から成り立っており、その主題は全てスペイン民謡だ。民謡を基礎として作曲したことについて、リムスキー=コルサコフは次のように述べている。「この曲では作曲のポイントは、音色の変化、適切な旋律の配置と装飾音型の選択、中でもそれぞれの楽器の結合、独奏楽器の巨匠風の短いカデンツァ、および打楽器のリズムに向けられ、仕上げとかオーケストレーションといったことは、もう作曲の重要課題ではなくなっていた。舞曲の形を持つスペインの主題は、様々な管弦楽の効果を試してみるという点で、豊富な素材を提供することになったのである。」

初演はペテルブルクにおいて、作曲家自身の指揮によりマリインスキー劇場管弦楽団の演奏で行われた。初演は大好評で、リハーサルでは楽員からも絶賛されたため、楽譜は演奏にあたった67人の楽員たちに献呈された。


I. アルボラータ(Vivo e strepitoso 生き生きと力強く イ長調 2/4拍子)

アルボラ-タとはアストゥリア地方の舞曲であり、言葉としては「夜明け」という意味を持つ。明るく快活な曲調はスペインの太陽がまぶしく輝きながら登る朝の情景を思わせる。スペイン風の熱狂的な旋律が全奏で賑やかに示され、独奏クラリネットにより繰り返される。もう一度全奏、独奏と繰り返されたのち、ヴァイオリン幻想曲の面影を感じさせる独奏ヴァイオリンの華やかなカデンツァを経て消え入るように終わる。

II. 変奏(Andante con molto 歩くような速さで動きをつけて ヘ長調 3/8拍子)

熱狂的な第1楽章とは対照的に穏やかで優美な旋律が奏でられる。アストゥリア地方のロマンス風な民謡「夕べの踊り」の主題に基づく5つの変奏からなる。

III. アルボラ-タ(Vivo e strepitoso 生き生きとやかましく 変ロ長調 2/4拍子)

速度も主題も第1楽章と同一だが、調子は半音高い変ロ長調である。ヴァイオリンとクラリネットが役割を交換している他、ハープが登場する。

IV. 情景とジプシーの歌(Allegretto やや早く ヘ長調 6/8拍子)

曲の前半は「ジプシーの歌」の主題に基づくカデンツァが絵巻物のごとく繰り広げられる。まず金管によって情緒豊かな旋律が示され、小太鼓が連打で加わる。次に技巧的な独奏ヴァイオリンが受け継ぎ、ヴァイオリンと打楽器の伴奏でフルートとクラリネットが「ジプシーの歌」を奏でる。フルートとクラリネットのカデンツァを経てオーボエの独奏を挟むと、ハープの華麗なカデンツァが情景の部分を締めくくる。ヴァイオリンの奔放な旋律から始まるのが後半の「ジプシーの歌」の部分であり、絢爛たる管弦楽法の極致と言える。哀愁漂うチェロの旋律やヴァイオリンのギター風の伴奏が印象的だ。曲は楽器を増やし熱も増し、クライマックスを築き上げて第5楽章に突入する。

V. アストゥリアのファンダンゴ(イ長調 3/4拍子)

ファンダンゴとはアンダルシア地方のムーア人あるいはアストゥリア地方に起源を持つ古い舞踏音楽。3/4拍子の物が多く、カスタネットやタンブリンなどでリズムを刻む。まずトロンボーンによって勇ましく前奏が奏でられてから、様々な楽器によりファンダンゴの旋律が受け継がれる。「ジプシーの歌」の主題を想起させつつクライマックスに達し、熱狂の内に第1楽章の「アルボラータ」に突入、興奮の絶頂の中で曲は華々しく終わる。


楽器編成

ピッコロ、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン2、チューバ、ティンパニ、トライアングル、バスドラム、スネアドラム、シンバル、タンブリン、カスタネット、ハープ、弦5部


参考文献

文責:管弦楽団学生指揮者
   クラリネット3年 森俊明


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1922年の創立以来、音楽部は学習院における文化活動の中心的存在としておよそ100年にわたり活動してまいりました。今日においては、2022年から始まる音楽部の新たな100年を見据え、さらなる飛躍を目指し日々の活動に精力的に取り組んでおります。